「だれでもピアノ®」の開発の起点は、「ショパンのノクターンを自力で演奏したい」という、手や足に障がいを持った1人の高校生の夢でした。
ヤマハは2015年10月より、文部科学省とJSTの事業である「革新的イノベーション創出プログラム(COI
STREAM)の拠点の一つである「東京藝術大学(以下、東京藝大)COI 拠点」に参画し、インクルーシブアーツ研究グループを技術面でサポートしてきました。
インクルーシブアーツとは、COIプログラムの立上げ以前より東京藝大で研究されてきたテーマで、「すべての人たちが芸術を通して等しく交流し、芸術が身近にある社会を目指していく」ことを目的としています。
その研究にあたって研究者が訪問した特別支援学校で、脳性まひの高校生たちがわずかに動く指を使ってピアノや電子キーボードを練習している姿に遭遇したことが、「たとえ指一本でも、完全な演奏ができる楽器が作れないか」という発想につながりました。
あくまでも演奏者に主体を置いたまま、両手両足を駆使した豊かな演奏表現を実現する──。この課題を解決する糸口となったのが、ヤマハの自動演奏ピアノ「Disklavier™(ディスクラビア)」と、演奏追従技術です。ディスクラビアを弾く右手(メロディパート)の演奏情報を瞬時にMIDIデータに変換し、自動演奏システムが楽曲情報と照合。演奏テンポに合わせて、左手パートの音を重ねるとともに、ディスクラビアに搭載されたペダル駆動システムを制御することで、演奏者の思い通りに完成された楽曲を奏でることができます。
この自動演奏システムは、2015年12月に開催された「藝大アーツ・スペシャル2015
障がいとアーツ」内のミニコンサートで初めて披露され、大きな注目を集めました。同コンサートでは、手や足に障がいのある特別支援学校の生徒たちがショパンやJ-POPを演奏。人と機械のアンサンブルによって障がいを乗り越え、大好きな曲を奏でる夢を実現する生徒たちの姿は、会場一杯の感動を呼ぶとともに、自動演奏サポートシステムが拓く音楽の可能性を示しました。
その後も、渋谷の街を舞台とした音楽フェスティバル「渋谷ズンチャカ!」や福祉展示展「超福祉展」などさまざまなイベントを通じて、多くの参加者に新たな演奏の楽しみ方や楽器演奏を通じた幅広い福祉への可能性を紹介しています。